建築鉄骨構造技術支援協会(SASST)  
 
Q

7-11 めっきHTB摩擦面のブラスト処理によるめっき剥離

 亜鉛めっき後の摩擦接合面処理方法にショットブラストがありますが,ショットブラスト施工後摩擦接合面内で亜鉛皮膜の剥離が起こることがあります。亜鉛末塗料などを塗布して対応しておりますが,剥離部の段差が残ってしまいます。摩擦接合面に剥離段差があっても問題ないと考えてもよろしいでしょうか。段差が問題となる場合、何かよい対処法はあるでしょうか。


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A

1. 溶融亜鉛めっきの剥離は鋼材素地とめっき部の境界で発生します。
 品質の不具合は,JIS H8641 : 2021,公共建築工事標準仕様書(以下,公共標仕)は「不めっき及び剥離」として同じ扱いです。一方、JASS 6は「不めっき」のみです。
 不めっき及び剥離をどの程度まで許容するか,どのように補修するかはJIS,JASS 6あるいは公共標仕によりますが,何れを採用するかは工事監理者を含めて協議が必要と考えます。
 一般的なめっき面の補修はジンクリッチペイント,亜鉛溶射,再めっきによります。但し,再めっきはめっき加工会社にとっても負担が大きくなるし,被めっき部材にとっても再度加熱されることになるので,剥離が広範囲の場合でも他の方法,亜鉛溶射やジンクリッチペイントなどを検討した方がよいのではないかと考えます。但し,ジンクリッチペイントの補修に当たっては,メーカーが行っている講習を受講することや,メーカーの施工要領書の内容を遵守することなどに留意して下さい。

@JASS 6 : 2018の抜粋
 9.4 めっき部材の矯正,検査および補修
不めっき:直径2mmを超えるものがあってはならない。
 不めっきの補修:

 ・局部的な欠陥が点在する場合 ワイヤブラシで入念に素地調整を行った後,高濃度亜鉛末塗料(金属亜鉛末を90%以上含むもの)を2回以上塗り付ける。

 ・欠陥が広範囲にわたる場合 再めっきを行う。

A公共標仕:令和4年の抜粋
 14.2.2 鉄鋼の亜鉛めっき
 使用上支障のある不めっき及び剥離がないこと。

 不めっき及び剥離の補修 ワイヤブラシで入念に素地調整を行った後,高濃度亜鉛末塗料
又は亜鉛溶射により補修を行う。

BJIS H8641 : 2021の抜粋
 7.品質
 7.2 外観

 a) 不めっき及び剥離
 使用上支障がある不めっき及び剥離は,あってはならない。
ただし,不めっき及び剥離が生じた場合には,次のいずれかによる。

1) 幅5mm以下の不めっき及び剥離は,あってもよい。幅5mm以下の不めっき及び剥離の許容する数又は面積は,受渡当事者間の協定による。

2) 不めっき及び剥離の幅が5mmを超える場合は,それらの総面積が有効面の面積の0.5%以下であり,かつ,各々の不めっき及び剥離の面積が10cm2以下であるときには,それを補修した面があってもよい。不めっき及び剥離の補修の方法は,高濃度亜鉛末塗料を用いるか,又は受渡当事者間の協定による。

3) 不めっき及び剥離の幅が5mmを超え,それらの総面積が有効面の面積の0.5%を超える場合,又は各々の不めっき及び剥離の面積が10cm2を超える場合は,注文者から指定があった場合を除き,加工業者の判断によって再度めっきを施すか,受渡当事者間の協定による。

注記3 不めっき及び剥離が小さい場合は、周辺亜鉛の犠牲的保護作用によって,耐食上大きな影響はない。犠牲的保護作用の効果が及ぶ不めっき部の幅は、5mmまでであることが実験的に確認されている。


 なお,建築工事監理指針:令和4年の7.12.6においてはフィラープレート・スプライスプレートのめっきが部分的に欠落した部分の補修方法として高濃度亜鉛末塗料と亜鉛溶射を示していますが,工事現場での施工性から高濃度亜鉛末塗料による方法が最も適しているとしています。

2. 摩擦接合面の剥離の補修
 摩擦接合面としては防錆上の補修の他,密着性の観点から段差の解消など必要と考えます。剥離部と健全部の段差は1mm未満かもしれませんが(HDZT77によるめっき厚は77㎛以上),摩擦面,特にボルト孔周辺の段差はグラインダなどで解消しておくべきです。
その手順例を示します。

「グラインダで段差を解消してから剥離部と周辺部をブラストで素地調整し,無機ジンクリッチペイント塗布する。なお,摩擦面に無機ジンクリッチペイントを使用する場合はすべり耐力試験を要求される場合がある。」

 なお,剥離範囲が広い場合は,亜鉛溶射も考えられます。


3. 溶融亜鉛めっき剥離の原因
 溶融亜鉛めっき部は外部から何らかの強い力が加わらない限り,自然剥離することはありません。2021年改正前のJIS H8641においては密着性の確認としてハンマー試験が規定されていました。このような打撃試験に合格することが条件であったので,外部から力が加わらない限り剥離はないと考えます。また,JIS改正後は目視試験のみとなっているので,めっき後外観を目視試験によって合格すれば剥離はないということです。


 ご質問の場合は外部からの強い力としてはブラストによる力と考えますので,ブラスト条件の設定が重要となります。
 黒皮や錆除去のブラストと比較して軽く打つ必要があるので,溶融亜鉛めっき摩擦接合面の粗さ(50㎛Rz以上)を確保するために圧力や投射量を調整するなどブラスト条件を検討し更に研削材も工夫する必要があります。必要に応じて、溶融亜鉛めっき高力ボルト技術協会「溶融亜鉛めっき高力ボルト接合設計施工指針」の「ブラスト処理要領」を参照して下さい。
 また,ブラスト方法としてエア式を採用しているめっき加工会社の例を紹介します。
 「試験片等でブラスト材・吹付距離を一定にして、必要な表面粗さが得られるように空気圧を調整する。」,「処理要領には鋳鋼製グリットと珪砂が記載されていますが,研削材としての珪砂はブラスト処理では作業環境問題からほとんど使用されていませんのでアルミナグリットを使用しています。」
 珪砂の使用については参考文献7にある以下の文章を参考にして下さい。



4. 剥離を起こさないために
 材料選定の他には外部から強い力を与えないように注意深く扱うほか,摩擦面に関していえばブラストでなく,薬剤処理を行えば剥離は発生しません。
 りん酸塩処理に対するすべり試験結果が多数蓄積され,すべり耐力,及びすべり係数が安定して確保できるようになったので,りん酸塩処理もJASS 6や公共標仕で標準的な摩擦面処理方法に加えられています。薬品の取扱説明書,標準作業手順を遵守し,対比試験片による検査などを適切に行うことが必要ですが,ブラストによる剥離を防ぐためこの方法を推奨します。


<参考・引用資料>
1.JASS 6 : 2018 日本建築学会 
2.公共建築工事標準仕様書 : 令和4年 公共建築協会
3.JIS H8641 : 2021 溶融亜鉛めっき
4.建築工事監理指針 : 令和4年 公共建築協会
5.JIS H0401 : 2013 溶融亜鉛めっき試験方法
6.溶融亜鉛めっき高力ボルト接合設計施工指針 2010 溶融亜鉛めっき高力ボルト技術協会
7.機械工事塗装要領(案)・同解説 平成22年4月 国土交通省総合政策局建設施工企画課
8.鉄骨工事技術指針―工場製作編 2018 日本建築学会

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