建築鉄骨構造技術支援協会(SASST)  
 
Q

3-72 製作中に付くクランプ傷に対する処置

 工場製作で使用する形鋼クランプは,作業者の安全を確保するために挟んだ部分が滑らないように様々な形状の爪があり,大きな荷重がかかるとその爪による傷が鋼材表面につきます。製品検査時にそのクランプ傷を指摘され,修正を指示されることがあります。
 工事現場施工においては安全最優先(吊り荷の落下防止)のため,深く傷が入る爪形状のクランプが使用されているケースもよく見かけます。
 クランプ傷の考え方は監理者により様々で,
 ・溶接部のアンダーカットの基準に基づいて修正指示をする
 ・少しでも傷があれば修正指示をする
 ・部位や部材によって修正方法を変えて指示する
 ・熱を入れて修正することを嫌がり出来るだけ触らないよう指示する
など,指示を受ける側は混乱することがあります。指示の中では,傷を溶接肉盛してグラインダ成形を要求されることが多いのですが,その傷の大きさ・面積は小さいためショートビードを置く事となり,最小ビード長さの観点からは,あまり良くない修正方法ではないかと考えて悩んでしまうこともあります。
 安全と品質の両方の観点から,クランプ傷に対するそれぞれの立場における考え方をこの機会にご検討いただき,ベストな方法を見出したいと考えております。

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A

 クランプ傷の対応方法については,安全に移動・運搬する観点と構造体に与える影響の観点から一概に言えないのが現状です。大梁・小梁・柱・仕口,梁の端部・中央,上フランジ・下フランジなど部材や場所によって影響は色々考えられます。安全に作業ができ,しかも構造体に影響を与えない,コストもそこそこという方法が有れば一番いいのですが,現状においてはかなり難しいと考えます。
 構造体に与える影響の程度は施工側(ファブリケータ、ゼネコン)では判断できません。従って補修する・しないの判断は設計者・監理者に委ねるしかありませんので,その意見がばらばらになるのは止むを得ないところです。
 手直しの判断やその方法については告示第1464号に対応したアンダーカットの補修方法(参考・引用文献(1) )を準用すればよいと考えますが,設計者・監理者に確認するようにして下さい。


 ・深さが0.05t(t=母材板厚)かつ1mm以下の場合
 グラインダにより除去し、滑らかに仕上げる。
 ・上記を超える場合
 グラインダ,ガウジングで傷を除去し,溶接により仕上げる。


 クランプ傷はアンダーカットと異なり平面的に何本か傷がつきますので,全体をカバーするように溶接を行えば(デッキプレートをとめる焼抜き栓溶接のイメージです),ショートビード等は気にしなくてよいと考えます。但し,傷を除去しないで単に上から溶接しただけでは傷が内蔵されたままになっている可能性がありますので,必ず傷を除去するようにして下さい。

 写真1は参考・引用文献(2) によるものですが,青〇で示した範囲全体をカバーするように溶接します。


 写真2は同じく参考・引用文献(2) の摩擦接合面のクランプ傷です。この場合は補修後,摩擦面処理が必要です。後処理を考えると,摩擦接合面にはクランプを使用しない方がよいと考えます。


<参考・引用文献>

 (1)突合せ継手の食い違い仕口のずれの検査・補強マニュアル P.155,156
   平成15年第一版 独立行政法人 建築研究所監修
 (2)ここに注意!鉄骨工事管理のポイント A-11-11 A-8-8
   2021年5月1日(一社)日本建設業連合会 建築本部 施工部会 鉄骨専門部会

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