建築鉄骨構造技術支援協会(SASST)  
 
Q

4-3 アークストライクはなぜ有害か

 アークストライクについては、母材に悪影響があり、よくないといわれます。母材がどんな変化をするのか、説明していただけませんか。

▲質問一覧に戻る


A

 アークストライクは、JIS Z 3001において「母材の上に、瞬間的にアークを飛ばし直ちに切ること。又は、それによって起こる欠陥」と定義されており、欠陥の一種であります。なお、この欠陥は、溶接を開始する際などに溶接ワイヤや溶接棒を不用意に開先面外の母材に接触させ、アークを発生させることによって生じるものであります。

 アークストライクが母材に及ぼす影響につきましては、図1にアークストライクの断面形状を示しますが、溶接熱影響部の生成、引張残留応力の発生、凹みによる応力集中の発生による影響の三点であります。これらが母材に及ぼす影響は、通常の溶接部に比べて大きくなりますが、形成される領域が非常に小さいという特徴を有しております。

 そのうち、溶接熱影響部につきましては、瞬間的なアーク発生によって鋼材表面が溶融温度まで加熱され、周囲の鋼材によって急激に冷却される急熱急冷の過程で形成されるものであり、通常の溶接において形成される溶接熱影響部に比べても硬くて脆くなる特徴を有しております。引張残留応力につきましては、鋼材表面が急熱急冷する過程において周囲の鋼材からの拘束によって発生するものであります。応力集中につきましては、母材が瞬間的なアークによって彫り下げられ、凹みができた場合の切欠きによって発生するものであります。

 これらが鉄骨構造の耐力に及ぼす影響につきましては、アークストライクが初期き裂発生の起点として作用し、母材の破断耐力が低下する可能性があることは明らかであります。ただ、実際の鉄骨構造では、母材の破断耐力が低下する要因がアークストライク以外に存在しており、アークストライクが単独に作用して破断耐力が低下することはほとんどありえないと考えられます。しかし、柱梁接合部などの鉄骨構造上の重要部に生じたアークストライクについては、それらの構造上の弱点と相俟って破断耐力が著しく低下する可能性があります。

 アークストライクの鉄骨製作上での管理については、技術・技能に関する問題点ではなく、管理者・技能者で構成する組織の品質意識レベルを表示するものとして管理すべきものと考えます。

図1
図1 アークストライクの断面図

参考文献:建築技術者の鉄骨Q&A 2集

▲質問一覧に戻る