建築鉄骨構造技術支援協会(SASST)  
 
Q

3-27 溶接個所がある梁の鋼種選定は

 完全溶込み溶接のある製品の中にSN400A材がありましたので、打ち合わせによりキャンテなどはSS400 に変更となりましたが、母材の梁(2B1)はSN400Aのままでもよいでしょうか。

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A

 質問の主旨は、建築鉄骨の部材鋼種選定の問題ですので、鋼種選定の基本を整理しながら具体的鋼種選定の取扱いについても触れてみることとします。

1. 構造用鋼材として、何を使うのか。

 構造用鋼材としてJISで定められた鋼材は、SN材(JIS G 3136 建築構造用圧延鋼材)、SM材(JIS G 3106 溶接構造用圧延鋼材)、SS材(JIS G 3101一般構造用圧延鋼材)があり、それぞれのJISの第1条に適用範囲が示されています。建築構造用としてはSN材を用いるのが基本です。

2. SN材の中の、何種を使うのか。

 建物での使用部位を考慮し、A種(小梁、トラスまたは二次部材のように弾性範囲で設計され、原則として完全溶込み溶接のような主要な溶接を施さない部材を主用途とする鋼種)、B種(塑性変形能力と溶接性を確保する鋼材)、C種(板厚方向に応力が作用する構造部材を主用途とする鋼種)に区分されます。建物を構成する部材は、SNのA,B,Cの内どれか一つに分類され、そこに属する部材設計がなされることになります。

3. SN400Aが入手困難なため、その代替にSS400を使用することの良否

 SN400Aを使おうとすると、市場にない場合はロール発注しなければならず、量的に少量となることが多いため納期が長くなり、実質的に入手困難となります。このようにして、SN400Aの代替にSS400を使用することが検討され、それが常態化することになります。SS400は規格的にはSN400Aより劣ると見ておかなければなりません。(表-2.1参照)その代償として、「SN400Aに完全溶込み溶接のような主要な溶接を施さない部材」としてきたものを、「SS400には隅肉溶接を含む完全溶込み溶接のような主要な溶接を施さない部材」に対してと若干厳しめに適用条件を設定しておくことも必要になるかもしれません。

4. SN400BまたはSN490Bの代替にSM400BまたはSM490Bを使用することの良否

 入手し易いのか、または価格面の理由からか、SN400BまたはSN490Bの代替にSM400BまたはSM490Bに変更することについて次のように考えます。勿論、SM400BおよびSM490Bは、建築基準法においては指定建築材料になっており、F値が与えられているので、法に則って正式に使用可能です。

 先ずSM材は溶接構造用圧延鋼材として船舶の分野で作られた規格であり、溶接がし易い鋼材として、PやSの含有率を減らし、炭素当量を減らしたきれいな鋼材としていますが、塑性変形能力を確保するという観点から必要な降伏比の規定がないことなど、耐震性に対する余裕度が若干でも劣る方向にあります(表-2.2参照)。従って、SN材を使って建築物を設計し、施工していくという行為は、建築を設計していく上で守るべき基本であると考えます。SN400B(SN490B)で設計された建築物をSM400(SM490)鋼材使用に変更することは、出来る限り避けることに努力を払っていただきたいと思います。これは、設計という行為をマクロにみると、せっかく制定したSN材が使われる量が段々減少し、鉄骨構造の建物の安全性が全体としてじり貧となっていく方向を向いてしまうことと思われます。

5. 部材の鋼種変更に係わる具体例の検討

 先ず、問いの文章で、①「完全溶込み溶接のある製品の中にSN400A材があったので、(打ち合わせにより)キャンテなどはSS400 に変更となった。」とあります。主要な溶接(完全溶込み溶接、固定端の反力を伝える隅肉溶接も含む。)に関係する変更がSN400A材からであれば、「SS400」へ ではなく、「SN400B」へ と変更するべきです。

 次に、②「母材の梁(2B1)はSN400Aのままでもよいか。」との問いに対しては、この小梁はSN400Aでもよいが、小梁とは言え、片持ち梁の支持端を担うフランジの溶接も予想されるので、SN400Bに変更しておいてほしいと考えます。

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