建築鉄骨構造技術支援協会(SASST)  
 
Q

3-24 裏当て金組立て溶接位置のはしあき寸法基準変更

 JASS 6では、5.7溶接施工一般の図5.2.aに示されている裏当て金の組立て溶接の梁フランジ端部からの空きを5mm超としています。以前の版ではこれが10mm超となっていました。この変更の理由を教えて下さい。

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A

 現在、ラーメン構造では柱が角形鋼管、梁がH形断面材となっている例が一般的です。この場合、大地震時に梁端部に生じる応力分布を模式的の示すと、概略図1のようになり、梁フランジ内ではフランジ端面に平均より大きな応力が生じます。このため、フランジ端面に近い箇所に溶接による部材の硬化や溶接欠陥などが存在すると、大地震時にその部分から梁が破断する可能性が大きくなります。

 そのような状況を避けるために、裏当て金の組立て溶接に用いる隅肉溶接の終始端部を梁フランジ端から遠ざけるためにこのような規定があります。その意味で裏当て金の組立て溶接は、その施工精度を考慮して梁フランジ端部から10mm以上離して溶接することが基本となります。以前の版のJASS 6 では、このような考え方からこの空き寸法を10mmとしていました。

 しかし、例えばH-250×125×6×9では裏当て金の組立て溶接の長さを40mmとした場合、隅肉溶接の端部から梁フランジ端面までの距離が6mmとなってしまいます。そこでJASS 6 の最新版ではこの空き寸法の規定値を5mm超としたわけであります。

 ただし、はじめに述べたような状況を考えると、基本的にはこの寸法を10mm以上確保することが望ましいと考えます。そこで、梁幅が200mm以上のサイズの梁については、この寸法を10mm以上とすることを原則として、梁幅が200mm未満の時を例外として5mm以上でよいとの表示をする方が望ましいものと考えています。

 なお、このような小サイズのH形鋼のフランジ厚は、11mm以下です。このような梁は、ラーメン構造の大梁として使用されている場合、大地震を受けた時、フランジ溶接部が破断する以前にフランジに局部座屈が生じるのが一般的です。つまり、このような部材では、溶接部に欠陥がなければ梁端部における溶接破断が生じる可能性が小さいと考えられ、上に述べた規定とすることを提案します。

 以上に述べたような諸要因を考えると、ご指摘の箇所についてはフランジ端から10mm以上空けることが基本であることが理解頂けると思います。

 なお、この質問と直接関係ないように見えるが、力学的には同様の理由から梁に取り付けるスチフナやガセットプレートの隅肉溶接も梁フランジ端から10mm以上離すこと(図2参照)が梁部材の耐震安全性を確保する上で重要な点です。この点は、JASS 6 には記述されていないせいかHグレードのファブでも必ずしも守られていないケースがよく見られる状況にあります。構造物の耐震安全性を考慮すると、この点も十分気をつけるべきであると考えます。


図1 梁端におけるフランジ内の応力分布

図2 スチフナ、ガセットプレート等の取付け(Ⓐ―Ⓐ矢視)

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