建築鉄骨構造技術支援協会(SASST)  
 
Q

2-13 ロールH形鋼及びビルトH形鋼相互の変更に係る問題点

 HY・SH(外法一定H形鋼)は、ロール材のため納期が必要です。短納期の時には、質疑書でBH(ビルトH形鋼)に変更願いをします。HY・SHをBHに変更するのはOKだけど逆は残留応力の関係でNGですと聞いた事があります。構造計算上、HY・SHをBHに変更してもらう場合とBHをHY・SHに変更してもらう場合で問題となる事はありますか。

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A

 HY・SH材(外法一定H形鋼)はロール圧延機で成形することにより製作された形鋼であるのに対し、ビルトH形鋼は3枚の鋼板を溶接することにより製作された形鋼です。いずれも同一の鋼材規格であれば、建前上は断面性能に差は無いと言えます。

 但し、ロール材の場合は圧延の過程で生じる残留応力のため、ウェブプレートの降伏点が高めとなりがちです。その結果、梁降伏先行で設計したつもりが、ウェブプレートの降伏点上昇の影響で、降伏モードが逆転し柱降伏先行になってしまうということにもなりかねません。それを嫌って、ロール圧延機で製作されたH形鋼を採用しないという設計者はいると思います。

 そこで、質問内容ですが、この場合ロールHからビルトHへの変更であれば、残留応力の生じない、つまり降伏点の増大が起こりにくい方向への変更と言えます。従って、断面性能の差は無い、あるいは性能的には良い方向への変更と言うことを説明すれば、設計者の理解は得られると思います。

 逆に、ビルトH形鋼からロールH形鋼への変更の場合は、上記の理由から変更要望を拒否されることはあると思います。しかし、降伏点上昇が問題となるのは、降伏モードに影響する梁端部(柱梁接合部)に限られます。ブラケット内側の梁部材等については、変更しても問題無いはずですので、部位を限って変更要望を出す等の工夫をすれば、受け入れてもらえる可能性は高いのではないかと思われます。

 H形鋼を用いた接合部について着目すると、阪神大震災の地震被害として梁端接合部の破壊が多く報告されました。この主となる要因はスカラップ底に生じる応力集中であることが知られています。この問題を解決する最もよい対応はノンスカラップ工法です。その次の対応として複合円型スカラップを採用する工法があります。BH(ビルトH形鋼)を梁として採用する場合は梁フランジ端の完全溶込み溶接とウェブ・フランジのサブマージアーク溶接の距離が近くなるので留意して加工および溶接を行う必要があります。また、特に問題が生じやすいのはBHを梁として用いて柱と現場混用接合とする場合です。この場合、梁の下フランジが内開先となるので梁フランジの完全溶込み溶接とサブマージアーク溶接が近づきやすいので加工および溶接において特に注意しなければなりません。下フランジが内開先となる場合は溶接欠陥が生じやすい溶接初層が梁フランジの外面側になることも破壊について不利な条件といえます。溶接金属のシャルピー値も破壊の生じやすさに影響を与えます。これらのようにBHを採用する場合には特に梁端接合部の製作・施工に際して留意点が多いといえます。したがって、ロールHをビルトHに変更する質疑の事前にこれらを理解しておくことが重要です。関連する内容については日本建築学会の鉄骨工事技術指針・工場製作編の「スカラップ加工」の部分に解説されているので必要に応じて参照してください1)。

【参考文献】
1)(一社)日本建築学会:鉄骨工事技術指針・工場製作編

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