建築鉄骨構造技術支援協会(SASST)  
 
Q

1-14 隅肉溶接継目の耐力は

 隅肉溶接部の耐力について、実際は設計で使用している公称値よりかなり高い値になると聞いていますが、その詳細を教えて下さい。

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A

 1次設計で使用されている隅肉溶接部の短期荷重に対する許容応力度は、そこに作用するあらゆる応力(引張応力、圧縮応力、せん断応力)に対して F/\(\sf\sqrt{3}\) と規定されています。ここでFは使用する鋼材の基準強度で、告示(平12建告第2464号)に規定されている値です。

 しかし隅肉溶接部の実際の耐力は、この許容応力度に基づく計算値を大きく上回るものです。下に示した図はそのような実験結果の一例を示しています(日本建築学会 鋼構造限界状態設計指針 3章6.接合部6.2接合要素の最大耐力および降伏耐力、離間耐力、すべり耐力6.2.1溶接、参考論文1))。この図は、当て金形式の前面隅肉溶接継手(F)と側面隅肉溶接継手(S)で1継目あたりの隅肉溶接の溶接長(l)を2種類変えて溶接部が破断するまで加力した場合の実験結果であり、縦軸に荷重(tf)、横軸に継手部に生じた変形(mm)を示している。また、図中には、それぞれの溶接継手の計算上の最大耐力(隅肉溶接部の最大応力度を4.1/\(\sf\sqrt{3}\) t/cm²として計算した値)を1点鎖線で示しています。使用した鋼材はSM50Aです。

 この図から判るように、隅肉溶接部の最大耐力は、上述の単純な計算値に対して前面隅肉溶接の場合約4.3倍、側面隅肉溶接の場合約2.8倍となっていて、いずれも非常に高い値となっています。この実験は、様々な理由から隅肉溶接のサイズと当て金の板厚が多少アンバランスな試験体を使用しているため、側面隅肉溶接継目の耐力が通常より特に大きくなっているが、前面隅肉溶接継目と側面隅肉溶接継目の性状を直接比較した試験体が他にないため、この実験結果を示したものです。つまり、この実験では当て板の厚さが12mmに対して隅肉溶接のサイズを5mmとしているため、隅肉溶接の母材への溶込み量が大きくなっていて、その影響で隅肉溶接の実際の断面積がサイズSから算定した値(公称値)に対して側面隅肉溶接継目では1.52倍、前面隅肉溶接継目では1.58倍となっています。その影響を考慮すると隅肉溶接部の最大耐力の実験値の計算値に対する比率は、実際には前面隅肉溶接で2.72倍、側面隅肉溶接で1.84倍となるが、いずれも非常に高い値となっています。

 この他の隅肉溶接の溶接線と加力線が傾いた斜行隅肉溶接継手に関する実験(日本建築学会 鋼構造接合部設計指針)でもほぼ同様な実験結果が得られており、それらの実験結果を総合的に解析した結果、日本建築学会の「鋼構造接合部設計指針」では、側面隅肉溶接継目単位長さあたりの短期許容耐力wQy、同じく最大耐力wQuとして以下の値が示されています。

wQy=(l+0.4 cos θ)a・Fy/\(\sf\sqrt{3}\) (2.35)
wQu=(l+0.4 cos θ)a・Fu/\(\sf\sqrt{3}\) (2.36)

 ここでFyは鋼材の設計規準強度、Fuは鋼材の引張強さの規格最小値、aは溶接部ののど断面積、θは溶接継目と荷重の作用線の角度です。

 すなわち、前面隅肉溶接では、側面隅肉溶接の1.4倍の耐力を有していることとなります。ここに見られるように、これらの実験結果および隅肉溶接部耐力の提案式は、建築基準法で定められた値を大きく超えており、この点に関する法的な裏付けがないため、実際の構造物の設計では採用できないのが現状です。

 ただし、既存の鋼構造建築物の耐震診断では、隅肉溶接部の耐力検定の際に以上に述べた耐力が採用されている場合もあります。ただし、その場合、隅肉溶接部の脚長は実際の接合部について何カ所かについて測定した値に基づいて決定する必要があることは言うまでもないことです。

< 参考論文1) >
 併用継手小委員会 各種ファスナーの併用継手に関する実験的研究(その1)
      日本建築学会論文報告集 第161号 昭和44年7月


図  隅肉溶接の変形と耐力

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